配偶者の扶養の範囲で働くスタッフやご家族を抱える治療院にとって、毎年話題になるのが「年収の壁」です。令和8年分からは、所得税や住民税の壁がこれまでより引き上げられ、配偶者控除の基準にも変更が加わります。院長ご自身が配偶者を専従者として雇っているケースはもちろん、パートスタッフの働き方にも関わってくるテーマなので、改正の内容と治療院側で気をつけておきたいポイントを整理します。

令和8年分から変わる3つの年収の壁

「年収の壁」と呼ばれるものは一つではなく、税金と社会保険とで基準が異なります。令和8年分では、このうち所得税と住民税の壁が引き上げられ、社会保険の壁は据え置かれています。

年収の壁
改正後の基準(改正前)
手取りの逆転
所得税
178万円以下(改正前:160万円以下)
なし
住民税※1
119万円以下(改正前:110万円以下)
なし
社会保険※2
130万円未満※3(変更なし)
あり

※1 住民税の非課税基準は自治体により異なります。
※2 勤め先で社会保険に加入する場合は、年収に関わらず扶養にはなりません。
※3 60歳以上または一定の障害者の場合は180万円未満です。

所得税・住民税の壁は「超えても急に損はしない」

所得税の壁が178万円、住民税の壁が119万円に引き上げられることで、これまでより多く働いても課税されにくくなります。この2つの壁は、超えた分だけ段階的に税負担が増える仕組みのため、壁を少し超えたからといって世帯の手取りが急に減ることはありません。「103万円を超えたら一気に損をする」というイメージを持っているスタッフも多いですが、令和8年分の制度ではその心配は当てはまらなくなります。

社会保険の壁は据え置き、手取り逆転に要注意

一方で、社会保険の130万円の壁は今回変更されていません。この壁を超えると配偶者の扶養から外れ、本人が社会保険料を負担することになるため、状況によっては手取りが一時的に減ってしまう「手取りの逆転」が起こり得ます。所得税・住民税の壁とは性質が異なる点なので、スタッフに説明する際は混同しないよう注意が必要です。パート施術者や受付スタッフのシフトを組む際は、年間の見込み収入がこのラインに近づいていないか、繁忙期に入る前から把握しておくことをおすすめします。

配偶者控除にも新しい基準ができる

スタッフ本人の年収だけでなく、世帯主(院長)側が受けられる配偶者控除・配偶者特別控除の基準も変わります。新しい基準は136万円、169万円、207万円の3段階です。136万円までは満額の控除を受けられますが、それを超えると段階的に控除額が減少し、207万円を超えると控除がなくなります。配偶者を専従者給与ではなく配偶者控除の対象として考えている院長にとっては、こちらの基準の方が実務上の影響が大きいケースもあります。

配偶者を青色事業専従者にしている場合は、そもそも配偶者控除の対象外になります。専従者給与と配偶者控除のどちらが世帯として有利かは所得水準によって変わるため、「家族への給与は経費になる?」もあわせてご確認ください。

企業独自の配偶者手当がある場合も忘れずに確認

治療院によっては、配偶者手当や家族手当といった独自の制度を設けているケースもあります。こうした手当は税制や社会保険の基準とは別に、事務所ごとに支給要件を定めていることがほとんどです。スタッフから「年収の壁が変わったので手当も変わりますか」と聞かれることを想定し、自院の手当の支給基準を今のうちに確認しておくと、問い合わせがあった際にスムーズに答えられます。

治療院側が今のうちにやっておきたいこと

制度が変わるタイミングは、スタッフの働き方を見直す良い機会でもあります。特に、扶養内で働きたいという希望を持つパートスタッフが複数いる治療院では、一人ひとりの年収見込みを早めに把握し、必要に応じてシフトの調整方法を伝えておくと、年末になって慌てずに済みます。給与体系全体の見直しについては「治療院の給与設計で失敗しないポイント」、年末調整に向けた実務の流れは「年末調整とは」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

よくある質問

Qすでに雇っているパートスタッフの働き方も見直した方がよいですか?
所得税・住民税の壁が引き上げられたことで、これまで扶養内に収まるよう時間を抑えていたスタッフが、もう少し働ける余地が生まれている可能性があります。本人の希望を確認したうえで、必要であれば労働時間や時給の見直しを検討するとよいでしょう。ただし社会保険の壁は変わっていないため、そちらの基準は引き続き意識しておく必要があります。
Q住民税の壁が自治体により異なるとはどういうことですか?
住民税の非課税基準は、各自治体の条例で定められているため、お住まいの地域によって金額が多少前後することがあります。119万円はあくまで一般的な目安として捉え、正確な基準を知りたい場合は、スタッフの住民票がある自治体に確認するか、顧問税理士に相談することをおすすめします。
Q配偶者控除の新基準は、いつの年収から適用されますか?
令和8年分の所得に対して適用される基準です。年の途中で制度が変わるわけではないため、令和8年1月から12月までの年収をもとに判定します。年の後半になってから慌てて調整することがないよう、早めに見込み収入を確認しておくと安心です。

年収の壁に関するルールは複数の制度が絡み合っており、毎年のように見直しが行われています。治療院専門の税理士に相談すれば、スタッフやご家族一人ひとりの状況に合わせた最適な働き方を一緒に検討できます。制度改正のタイミングで、一度雇用状況全体を見直してみてはいかがでしょうか。

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