「うちのような小さな治療院にも税務調査は来るのですか?」というご質問を、開業間もない先生からもベテランの先生からもよくいただきます。結論からお伝えすると、規模の大小にかかわらず、治療院にも税務調査は入ります。今回は、税務調査が入る可能性や対象になりやすい治療院の特徴、調査の実際の流れ、追徴課税のリスク、そして日頃からできる備えについて、治療院専門税理士の立場から詳しく解説します。

税務調査は業種を問わず行われる

税務調査は、売上規模の大小にかかわらず、あらゆる事業者を対象に行われます。治療院も例外ではなく、開業から数年が経過し、一定の売上規模になった段階で調査対象になることがあります。「自費診療が中心で現金のやり取りが多い」「保険診療と自費診療が混在していて申告が複雑になりやすい」といった業種特性から、税務署が治療院業界そのものに注目しているという側面もあります。

治療院に調査が入る確率はどれくらいか

国税庁が公表している統計によると、個人事業主全体で実地調査が行われる割合は、年間でおおむね1%前後といわれています。数字だけを見ると「めったに来ない」と感じるかもしれませんが、これは全業種の平均値です。現金商売の性質が強く、経費の判断が分かれやすい治療院のような業種は、平均よりも調査対象に選ばれやすい傾向があるとされています。開業から一度も調査が入らない治療院がある一方、開業3〜5年程度で調査の連絡が入るケースも珍しくありません。

対象になりやすい治療院の特徴

すべての治療院が同じ確率で調査対象になるわけではありません。国税庁の申告データ分析(KSKシステム)によって、同業種・同規模の事業者と比べて数字に不自然な点がないかがスクリーニングされており、特に、次のような特徴がある治療院は、税務署から注目されやすい傾向があります。

これらに当てはまるからといって必ず調査が入るわけではありませんが、心当たりがある場合は、一度、顧問税理士と一緒に申告内容を見直しておくと安心です。特に、開業から一度も税理士の関与なしに自己申告を続けてきた治療院は、こうした特徴に自分では気づきにくい傾向があるため、第三者の目で確認してもらうことに意味があります。

調査で特に確認されやすい書類

税務調査では、確定申告書や総勘定元帳だけでなく、予約台帳や施術記録、レジの日次レポート(いわゆるZレポート)、通帳のコピーなど、申告内容の裏付けとなる書類が幅広く確認されます。特に、予約台帳やカルテの記録件数と、レジや帳簿上の売上件数を突き合わせて、計上漏れがないかを確認されるケースが多く見られます。日頃から予約管理システムと会計データを連動させておくと、こうした突き合わせにもスムーズに対応でき、調査自体も短時間で終わりやすくなります。逆に、予約件数と売上件数が明らかに合わない状態が続いていると、それだけで調査官の心証を悪くしてしまうため、月次の段階で数字の整合性を確認しておく習慣が重要です。

治療院特有の指摘ポイント

治療院の税務調査では、業種特有の論点が指摘されることがあります。代表的なのが、自費診療の売上除外(現金で受け取った施術料の一部が申告に反映されていない)、家族専従者給与の実態(実際の勤務実態が伴っているか)、車両費や交際費の家事按分(プライベートと事業の按分が適切か)といった項目です。これらはいずれも特別な対策が必要というよりも、日頃の記帳と証拠書類の整備次第で、指摘リスクを大きく下げることができるポイントです。

税務調査の種類と事前通知

治療院に入る税務調査のほとんどは「任意調査」と呼ばれるもので、悪質な脱税が疑われる場合に行われる「強制調査(査察)」とは性質が異なります。任意調査の場合、通常は調査の1〜2週間ほど前に、税務署から電話で事前通知があります。「いきなり調査官が訪ねてくる」というイメージを持たれがちですが、実際には日程調整の連絡から始まるのが一般的です。任意調査といっても、正当な理由なく拒否することは法律上できませんが、施術予約が入っている、学会や研修で不在にしているといった合理的な理由があれば、日程の変更に応じてもらえるケースがほとんどです。

調査の頻度は決して高くない

とはいえ、すべての治療院に毎年調査が入るわけではありません。個人事業主の場合、数年〜十数年に一度というケースが一般的です。税務署の調査官の人員には限りがあり、すべての事業者を毎年チェックすることは物理的に不可能なため、申告内容や業種の傾向から、優先的に確認すべき対象が選ばれる仕組みになっています。過度に恐れる必要はありませんが、いつ調査が入っても困らない経理体制を整えておくことが大切です。

実際の税務調査はどのように進むのか

①事前通知
税務署から顧問税理士(または本人)へ電話で連絡が入り、調査日程を調整します。

②実地調査
通常1〜2日程度、調査官が来院し、帳簿・領収書・通帳などをもとに、申告内容と実態が一致しているかを確認します。院長への質問(施術の流れ、料金設定、スタッフの雇用形態など)も行われるのが一般的です。

③是正・修正申告
指摘事項があれば、内容をすり合わせたうえで修正申告を行います。指摘がなければ「申告是認」として調査は終了します。

実地調査自体は1〜2日で終わることが多いですが、事前準備や調査後のやり取りを含めると、全体で1〜2か月程度かかることもあります。

税務調査の連絡が来たら、まず何をすべきか

税務署から事前通知の連絡が入ったら、まず落ち着いて日程を確認し、顧問税理士に速やかに共有することが第一です。調査までの期間で、過去数年分の帳簿・領収書・請求書・通帳のコピーなど、必要書類を整理しておきましょう。指摘されそうな項目に心当たりがある場合は、事前に税理士と一緒に内容を確認し、説明できる状態にしておくことで、調査当日の対応がスムーズになります。焦って書類を作り直したり、記録を書き換えたりする行為は絶対に避けてください。かえって心証を悪くし、重加算税など重いペナルティにつながるリスクがあります。わからないことを聞かれた際は、その場で曖昧に答えず、「確認して後日回答します」と伝えることも、無用なリスクを避けるうえで大切な心構えです。

追徴課税となった場合のリスク

調査の結果、申告漏れや経費の否認が判明した場合、不足していた税額に加えて、過少申告加算税延滞税といった追徴課税が発生します。悪質と判断された場合は、より重い重加算税が課されることもあります。追徴税額そのものに加えて、これらの加算税・延滞税の負担が経営に与える影響は決して小さくありません。過少申告加算税は本税の10%〜15%程度、無申告加算税は15%〜20%程度が目安とされ、悪質と判断された場合の重加算税ではさらに35%〜40%程度が上乗せされます。日頃から正しい申告をしておくことが、結果的に最も確実な備えになります。

日頃の備えが最大の対策

税務調査に対する一番の備えは、特別な対策をすることではなく、日頃から正しく記帳し、根拠となる書類を整理しておくことです。特に、現金売上の管理と領収書の保管は、調査で必ず確認される項目です。「現金売上の管理方法」「領収書はどこまで必要?」もあわせてご覧いただき、日々の経理体制を見直すきっかけにしていただければと思います。経費で調査されやすい項目については「経費で税務調査されやすい項目」で詳しく解説しています。

よくある質問

Q顧問税理士がいない場合、税務調査にどう対応すればよいですか?
顧問税理士がいない状態で調査の連絡を受けた場合でも、調査当日までに税理士に依頼して立ち会ってもらうことは可能です。専門知識がない状態で一人で対応すると、意図せず不利な発言をしてしまうこともあるため、早めに相談することをおすすめします。
Q領収書を紛失してしまった場合はどうなりますか?
領収書がなくても、通帳の記録やレシート、取引先への確認などで実態を証明できれば、経費として認められる可能性があります。ただし証明が難しいと否認されるリスクが高まるため、日頃から領収書・レシートを確実に保管する習慣が重要です。
Q過去の申告に誤りがあることに自分で気づいた場合はどうすればいいですか?
税務調査の通知が来る前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税が課されずに済みます。誤りに気づいた時点で、できるだけ早く税理士に相談し、修正申告を検討することをおすすめします。
Q税務調査は事前連絡なしに突然やってくるものですか?
ほとんどの場合、1〜2週間ほど前の事前通知を経てから実施されるため、「ある日突然調査官が来る」というケースは稀です。ただし、現金商売で不正が強く疑われる悪質なケースでは、無予告調査が行われることもあります。日頃から適正な申告をしていれば、過度に心配する必要はありません。

税務調査は、正しく経理をしていれば必要以上に恐れるものではありません。とはいえ、いざ調査の連絡が入ってから慌てて準備をするのは、精神的にも負担が大きいものです。治療院専門の税理士に日頃から関わってもらうことで、月々の記帳の段階からリスクの芽を摘み、調査が入っても落ち着いて対応できる体制を整えられます。アトラス会計では、月次顧問を通じて日々の記帳内容を確認し、税務調査への立ち会いまで一貫してサポートしています。「今の経理体制で調査が入っても大丈夫か不安」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

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