300院以上の治療院を見てきた中で、院長先生からよく聞くのが「売上は増えているのに、思ったほどお金が残らない」という悩みです。整骨院・接骨院・鍼灸院・整体院など、治療院の経営では「売上」だけでなく、利益率や人件費率を把握することが重要です。
実際の現場でよくあるのは、スタッフを増員したタイミングや、広告費を前年のまま据え置いたタイミングで、売上は伸びているのに手元に残る利益が増えていないというケースです。原因は「売上」ではなく、人件費率や広告費率といった費用側の変化を追えていないことにあります。この記事では、売上規模別の利益率・人件費率の目安をはじめ、家賃比率・広告費・院長報酬・自費率・営業利益・現預金残高まで、経営の数字をまとめて解説します。
利益率の目安は、売上規模によって変わる
治療院の利益率は、売上規模が大きくなるほど下がりやすいという特徴があります。売上が小さいうちは院長一人、あるいは少人数で運営できる分、経費が売上に対して相対的に小さく済みますが、売上規模が大きくなるとスタッフ数や店舗の広さも比例して増え、固定費の負担が重くなるためです。目安は次の通りです。
| 月商の目安 | 適正利益率の目安 |
|---|---|
| 〜100万円(院長1人) | 35〜40%程度 |
| 100〜300万円(スタッフ数名) | 25〜30%程度 |
| 300万円〜(複数院・分院) | 15〜20%程度 |
※ここでいう利益率は、治療院の営業利益を売上高で割った営業利益率を想定しています。実際の適正水準は、保険・自費の比率、スタッフ数、家賃、広告費、院長報酬などによって異なります。
「売上が大きいほど儲かる」というイメージを持たれがちですが、率で見ると必ずしもそうではありません。規模が大きくなるほど、後述する人件費や家賃などの固定費をどれだけコントロールできるかが、利益率を左右するポイントになります。
例:月商500万円の治療院の場合
数字だけではイメージしづらいので、月商500万円(複数院・分院クラス)・利益率20%のモデルケースで内訳を見てみましょう。
| 項目 | 金額(月商500万円の場合) |
|---|---|
| 売上 | 500万円 |
| 人件費 | 160万円 |
| 家賃 | 40万円 |
| 広告費 | 50万円 |
| その他経費 | 150万円 |
| 営業利益 | 100万円 |
| 利益率 | 20% |
このように、人件費・家賃・広告費・その他経費を積み上げていった結果として残るのが営業利益です。「利益率20%」という数字だけを見るより、どの費目にいくら使っているかまで分解して見た方が、自院の数字と照らし合わせやすくなります。
人件費率の目安
利益率と表裏一体の関係にあるのが人件費率です。売上規模が大きくなるほど、雇用するスタッフの人数も増えるため、人件費率は上昇していきます。
| 月商の目安 | 人件費率の目安 |
|---|---|
| 〜100万円(院長1人) | 0〜15%程度 |
| 100〜300万円(スタッフ数名) | 20〜30%程度 |
| 300万円〜(複数院・分院) | 30〜35%程度 |
月商100万円規模までであれば院長お一人か、それに近い体制で運営できることが多く人件費率は低く抑えられますが、スタッフを雇用する規模になると人件費率は20%台まで上昇し、複数院・分院展開クラスになると30%台まで上昇していきます。スタッフを増やすタイミングと、それに見合う売上が確保できているかを、あわせて確認しておく必要があります。
家賃比率の目安
家賃比率は、以前は15%程度が目安とされていました。しかし現在は、10%を切る水準を目指すことをおすすめしています。広告費をはじめとした他の経費や物価が上昇している中、家賃だけを従来の水準のまま許容してしまうと、全体の利益を圧迫する要因になりやすいためです。物件選びの段階で押さえておきたいポイントは、整骨院経営における適正な家賃比率とはでも詳しく解説しています。
広告費の目安
広告費は、できれば10%程度に抑えたいところです。ただし、開業直後や分院展開の直後など、新規集客に力を入れる必要があるタイミングでは、一時的に15%程度まで広告費をかけても問題ありません。重要なのは、「今が投資すべき時期なのか、抑えるべき時期なのか」を意識的に判断することです。
院長報酬の考え方
院長ご自身の報酬は、経営のステージに応じて金額を変えていくという考え方が基本になります。開業直後は運転資金を優先し、報酬を抑えめに設定する先生が多い一方、経営が軌道に乗ってきた段階では、事業に必要な資金を確保した上で、報酬を引き上げていくことになります。院長報酬を一律に固定してしまうと、投資すべきタイミングで資金が不足する原因にもなりかねません。
自費率も併せて確認する
保険診療と自費診療の比率、いわゆる自費率も、利益率と切り離せない指標です。一般的に、自費診療は保険診療よりも単価を高く設定できるため、自費率が高い治療院ほど利益率も高くなりやすい傾向があります。保険診療を軸にしながら自費メニューをどう組み合わせるかは、利益率を改善する上での重要な検討ポイントになります。
最終的に見るべきは営業利益
ここまで見てきた人件費率・家賃比率・広告費・院長報酬といった各項目を売上から差し引いた残りが、営業利益です。個々の比率が目安の範囲に収まっていても、積み上げた結果として営業利益がどれだけ残っているかを見なければ、本当に経営が健全かどうかは判断できません。比率のチェックと、営業利益の実額のチェックは、必ずセットで行うようにしましょう。
現預金残高も忘れずに確認する
利益率や営業利益の数字が良くても、手元の現預金残高が少なければ、急な支払いや設備の故障などに対応できず、資金繰りに行き詰まるリスクがあります。損益計算書の数字だけでなく、通帳や試算表で現預金残高の推移を定期的に確認し、無理のない範囲で手元資金を積み上げていく意識を持つことが大切です。「利益は出ているはずなのに、なぜか現金が増えない」という場合は、利益と現金が違う理由もあわせてご覧ください。
利益率・人件費率・家賃比率・広告費・院長報酬・自費率・営業利益・現預金残高。ここまで挙げてきた数字を一つずつ確認していくと、自院の経営状態がどこにあるのか、かなり具体的に見えてきます。
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